昨秋読んだ本の紹介です。読んだ直後は「はぁ、おもしろかったなぁ」という軽い感想だったのですが、その後、じわじわと脳が侵されてきて(?)、自分がいま実際に「百年法」の存在する世界に生きているのではないかと錯覚してしまうことがあります。
以下、ざっくりと世界観を。
その世界には「不老になる注射」があり、20歳以上の人は希望すればだれでもワクチンを受けられる。実年齢が80歳でも90歳でも100歳でも見た目は若く、子供も産める。老人を見ることはほとんどないが、ごくまれに、注射を受けない人もいる(強制ではないので)。20歳以降であれば何歳で注射を受けてもよい。ただし、ワクチンを受けた人は「百年後に必ず死ななくちゃいけない」という法律がある。
百年というのはアメリカが決めた年数で、アメリカではすでに安楽死が実行されている。中国や韓国では60年。だから中韓では注射を受けても受けなくても寿命はあまり変わらない。しかし納税額が多い人などは60年過ぎても生き続けられる特例がある。
日本では、法律はあるものの、政府は安楽死の実行を先延ばしにしており、他国から「百年法を守れないなら、もうワクチンを供給しないぞ。早くやれよ」とプレッシャーをかけられている。
と、こんな感じです。
でもこれは、小説のごく序盤にあたる部分。ここから物語が動いて、その後に続く激流のような50年が語られていきます。
小説の世界でも、政治は選挙で動きます。
20歳以上でワクチンを受けている人は、もうワクチンを受けなくていいので、外国から「もうワクチン供給しない」と言われても痛くもかゆくもない。
でも20歳未満の人にとっては、自分が受けられなくなるんだから切実に困る。
切実に困るのに、20歳にならないと選挙権がないから政治に参加できない。
選挙権があるって、なんて強いことだろう、と改めて思ったのでした。
私がこの本を読んだ頃、日本では、すでに18歳が選挙に行けるようになっていました。小説の世界でも20歳未満の人に選挙権があったなら、流れは変わっただろうな、と思いながら読みました。
そして、この本を読んだ後に、日本では首相が消費税引き上げをしないと発表し、アメリカ大統領選挙でトランプさんが選ばれました。
国会でもめている様子や、選挙結果を伝えるテレビを見ると、「あ、百年法でもめてるのかな」「百年法の選挙をやってるのかな」と思ってしまう自分がいます。
フィクションでありながら、政治や選挙のことをすごく真剣にリアルに考えさせられた本でした。