小学3年生の作文問題で、「あなたの前に魔法使いが現れました。ひつだけ願いをかなえてくれると言っています。なにを願いますか?」という課題がありました。
長女は「『願いはかなえてくれなくていいから、わたしに魔法を教えてください』と頼みます。願いはひとつじゃたりないし、自分が魔法使いになったら、すきなだけ願いをかなえられるからです。」と書いていて、苦笑してしまいました。
そんな長女に、芥川龍之介の『魔術』を読んでほしくて、この本を買いました。
杜子春・トロッコ・魔術 講談社青い鳥文庫/芥川龍之介
『魔術』は、インド人の青年から魔法を教えてもらう男の話です。ただし、欲を出してしまうと魔法は消えてしまう、という条件があります。自分が金持ちになりたいような人は魔法が使えないわけです。
男は「けっして欲を出さないから」と頼み込んで、魔術を教えてもらうのですが・・・。
芥川龍之介が『魔術』を発表したのは、1919年だそうです。ちょうど100年前ですね。100年たっても色あせない、スタイリッシュでハイカラな文体に、震えます。
『蜘蛛の糸』『杜子春』など、有名な作品がそろったこの本の中で、わたしが一番気に入ったのは、『トロッコ』でした。
子どものころに読んだはずなのですがすっかり忘れていて、「あれ?だれか死ぬんだっけ?」「ん?死なないでクリアしちゃった?どうなるんだっけ?」と、どきどきしながら読みました。
夕暮れ、知らない場所を歩く少年の心細さが自分の子供時代に重なり、何十年も前に見た夕日の色を思いだしてせつなくなります。
粋で、清潔で、上品で、残酷さやエロとは遠い作風。しかも、男前。子どものころから「芥川龍之介はかっこいいなぁ」と思っていました。
21世紀になった今でも、そして彼より年上になってしまった今でも、やっぱり芥川龍之介って、かっこいいなーって思うのでした。